接続水域では何もできない
尖閣のニュースを条文と国会会議録からやさしく解説
- 著者
- 城戸 直哉
- シリーズ
- ニュースのことば 第2巻
- 分野
- 政治・時事の用語
- 形態
- 電子書籍(Kindle)/紙書籍
- 出版社
- 文灯社
「接続水域に入りました」。この一行に当たるたびに少し身構えて、それきりになる。次の日にまた同じ言い方に当たる。この本は、そこを入口にしています。
一度は調べにいったかもしれません。海の区分の説明が並んでいて、読めば読めて、読み終わるとそこでおしまいになる。しばらくして同じ語をニュースで見たときには、また元の位置に戻っている。調べたのに、残らなかった。この本が引き受けるのは、そちらのほうです。
わたしは、正しい側を決めません。どちらの言い分が通っているかを書きません。いまの決まりについて、足りているとも足りていないとも書きません。相手の国が何を考えているかにも入りません。決めない代わりに置いていくものが一つあります。あの語がまた流れてきたとき、どこを開けばいいのか。その道筋を、最後に二つの問いの形にしてお渡しします。
開いたのは五とおりの文書だけです。法令の原文。国会の会議録。海上保安庁が公表している資料。参議院が出している議案の概要。内閣官房が公開しているページ。報道から取ってきた事実は、一つも入っていません。本文の事実には注を付け、章の終わりに引用元をそのまま並べてあります。誰でも同じところを開いて、同じ文字を読めます。
十二章で、こういうことが分かります。
・内水・領海・接続水域という三つの帯は、どこを起点に、どこまで測ったものなのか ・その帯について、日本の法律が書いているのは「通関、財政、出入国管理、衛生」の四つの分野だけだということ ・領海の内側にだけ働く法律が、別にあること ・条文の括弧の中に、対象から外してある船が書いてあること ・答弁の「一般的に」と「完全に」が、どこで書き分けられているか ・「侵入」と「侵犯」という二つの字が、どちらの紙に刷ってあるか ・「のべ」という数え方が、何を数えていて、何を数えていないか
題は言い切りの形をしていますが、その言い切りを支えているのは場所の側と相手の側の二つだけです。
埋められなかったところもあります。いちばん大きいのは、国連海洋法条約の日本語の条文が、どの経路でも開けなかったことです。開けなかったものは、開けなかったと書いてあります。「おわりに」には、章ごとに答えなかったことを並べました。
分からない場所に名前が付いていれば、次に誰かがそこを埋めて話しているとき、それが資料の話なのか、その人の読み方なのかを切れます。この本が渡せるものの半分は、そちら側にあります。