しんどくない自炊
自炊が続かない人の、台所の段取り入門
- 著者
- 板倉 真里
- シリーズ
- 台所の段取り シリーズ 第1巻
- 分野
- 自炊・料理の段取り
- 形態
- 電子書籍(Kindle)/紙書籍
- 出版社
- 文灯社
日曜日に、やる気のある顔で野菜を買って帰りました。水曜日の夜、冷蔵庫の扉を開けると、その袋はまだ同じ場所にあります。作る気がなかったわけではありません。材料も、ちゃんとありました。それでも三日のあいだ、手は動かなかった。そういう夜、人は自分にこう言います。わたしは料理が下手だから。そもそも、こういうことが続かない人間だから。
この本は、そのどれもちがうと考えています。あなたが夕方にやっているのは、今日は何を作るか、何が残っているか、どれから使わないと悪くなるか、洗い物はどれだけ増えるか——それを毎晩、まっさらな状態から、いちばん疲れている時刻に、ひとりで決め直す仕事です。続かないのは腕でも根気でもなく、決め直す回数が多すぎるだけ。そして決め直す回数は、腕を上げなくても減らせます。
だから、この本にレシピは出てきません。分量も、火加減も、切り方も、味つけの決まりも出てきません。珍しい道具も、便利な機械も出てきません。献立を一週間ぶん決めさせることも、休日に作り置きを並べさせることもしません。体にいい・悪いという話も、誰が作るかという話もしません。
扱うのは、台所の中の順番と置き場所と、決める時点だけです。決める仕事は、疲れていない時刻の自分へ渡しておく。毎回ちがう料理を選ぶのをやめて、手が覚えた数品を回す。買い物のかごには「これで何を作るか」が言えるものだけ入れる。使うものを台の上に出しきってから、火をつける。台所に入ったら、待つだけの仕事をいちばん先に走らせる。まな板を出しているうちに、明日のぶんをもうひとつ。そして最後に、台をひと拭きして終える。
続く仕組みには、はじめから休みが入っています。作らない日を先に決めておけば、それは崩れではなく計画になります。しばらく台所から離れた時期があっても、戻る一手をひとつ持っていれば、また立てます。湯を沸かすだけ、台をひと拭きするだけ。それで、その日は台所に立ったことになります。
読み終えても、あなたの腕は今と同じです。作れる品数も、たぶん増えていません。変わるのは、台所までの距離だけ。扉の前で立ちつくす時間が短くなり、火をつけてから走り回らなくなり、食べ終わったあとの流しが、前ほど怖くなくなります。今夜は、ひとつだけで十分です。